少しずつ食べられるものが増えてきた。 周りからは「元気になって良かったね」と言われる。
でも本当は、心がちっとも追いついていない。 体重計の数字が少し増えるたびにパニックになり、鏡に映る自分の変化が怖くてたまらない。
「いつになったらみんなみたいに、何も気にせずに食べられるの?」 そんな出口の見えないトンネルの中で、一人で苦しんでいませんか?
この記事を書いている私自身も、8年間摂食障害と戦い、「“治りかけ”が一番辛い」というトンネルを、何年も彷徨った経験があります。
この記事は、そんな孤独な戦いを続けるあなたへ贈る、「希望のメッセージ」です。
回復期に苦しむ「あるある」を共有し、あなたの今の苦しみが「異常」ではないことを伝え、そして、その暗闇の中で見失いがちな「小さな光」を見つけるためのヒントを、私の経験を元にお話しします。
これって私だけ?摂食障害「回復期あるある」チェックリスト
摂食障害の回復期は、病気だった頃とはまた違う苦しい感覚に戸惑うことが多いものです。 この項目で紹介する8つのチェックリストの中で、「わかる…」と感じるものがあるか、確認してみてください。
- 体重が増えるのが怖くて、毎日何度も体重計に乗ってしまう
- 周りは「ちょうどいい」「健康的だよ」と言うのに、自分ではまだ「太っている」と感じてしまう
- 常に食べ物のことばかり考えてしまい、頭から食欲が離れない(過食欲求)
- 少し食べただけなのに、異常な満腹感と罪悪感に襲われる
- 人と食事に行くのが、嬉しい反面、ものすごく緊張して疲れてしまう
- 「もう治ったんでしょ?」と周りに軽く言われるのが、実は一番辛い
- 理由もなくイライラしたり、急に涙が出たり、感情のコントロールが難しいと感じる
- 「本当にこのまま治るの?」と、全てを投げ出したくなるくらい不安になる
いくつ当てはまりましたか?
もし、たくさん当てはまって、余計に不安になってしまった人がいたら、お伝えしておきたいことがあります。
ここに書いたことは、回復期には“ごく当たり前に”起こることです。
その”当たり前”に、私も2年以上苦しんだ経験があります。
しかし、このような感情に苛まれるのは、あなたの心が弱いからでも、治る気がないからでもありません。
それは、あなたの心と体が、必死に元の健康な状態に戻ろうと戦っている、正常なプロセスなのです。
次の章では、なぜこんなにも苦しいことが起きるのか、その理由を一緒に見ていきましょう。
なぜ回復期はこんなに苦しいの?心と体に起きていること4選
前の章のチェックリストに、たくさん当てはまった方もいるかと思います。
しかし、 「やっぱり私はおかしいんだ…」とは思わず、あなたの心と体に何が起こっているのかを理解することで、自分を客観的にみることができます。
回復期が苦しいのには、あなたの心と体に起きている、ちゃんとした理由があるのです。
① 体の変化:「飢餓」からの反動と、「再構築」のプロセス
- 止まらない食欲は、体が「生きよう」としているサイン: 「常に食べ物のことを考えてしまう」「一度食べ始めると止まらない」。この状態は、長い間砂漠を彷徨っていた人が、オアシスを見つけたらがぶがぶ水を飲むのと同じです。 あなたの体は、長年の栄養不足から身を守るために、「次にいつ栄養が入ってくるか分からないから、今のうちに蓄えなきゃ!」と必死に命令を出している状態。これは、体が正常に機能し始めた、回復のサインなのです。
- 体重増加やむくみは、体が賢明な判断で「修復」している証拠: 回復期に増える体重は、まず生命維持に不可欠な内臓や脳、骨などを修復するために使われます。そのため、最初は手足などではなく、顔やお腹周りなどに脂肪がつきやすく、むくみや満腹感も感じやすいのです。 これも、あなたの体が回復の航路に乗り、必死に修復作業を進めている証拠です。
② 心の変化:「心の杖」を手放す恐怖と、「感情」の回復
- 症状を手放すのが怖いのは、それが「心の杖」だったから: 摂食障害の症状は、どんなに辛くても、長年あなたの心を支えてきた「杖」のようなものだったのかもしれません。体重をコントロールすることで、不安やストレスから逃れることができた。その為、その「杖」を手放すことは、「無防備な状態で、荒れ地に一人で立つ」ような、ものすごい恐怖を伴います。
- 感情の起伏が激しいのは、「心が健康に」戻ってきている証拠 :栄養が足りない状態は心まで麻痺させ、様々な感情を感じにくくさせます。 回復期に栄養が満たされてくると、麻痺していた感情が、ダムが決壊し、止まっていた川の流れが一気に放流されたかのように戻ってきます。その影響で、理由もなくイライラしたり、涙が止まらないことがあります。しかしそれは、あなたの感情が「健康」に戻ってきている証拠なのです。
この4つの回復プロセスの影響は、回復期を迎えるあなたにとって、耐え難いものかもしれません。
私も、この回復プロセスに対し、「いつまでたっても”普通”になれない」と、一人で泣いたことがありました。
次の項目では、そんなあなたへの「心の処方箋」を、4つお伝えしていきます。
回復期の暗いトンネルで光を見つける、心の処方箋4選
回復期という暗くて長いトンネル。 「本当にこの道であっているの?」と、不安で立ち止まってしまいそうな時、あなたの足元を照らしてくれる「心の処方箋」を4つ、お伝えします。
処方箋①:「100点の日」も「0点の日」も作らない
回復の道は、まっすぐな上り坂ではありません。良い日もあれば、悪い日もある、螺旋階段のようなものです。
もし症状が出てしまっても、「ああ、またダメだった」と自分を0点にするのはやめましょう。 「そっか、今日は体が栄養をたくさん欲しがってたんだな」「明日は、もう少し穏やかに過ごそう」と、ただ事実を受け止める。
完璧な回復を目指さないことが、回復を続ける一番の秘訣です。
処方箋②:体重計ではなく、「できたこと」を回復のバロメーターにする
回復期に体重が増えるのは、体が正常に戻ろうとしている証拠。しかし、頭では分かっていても、長年戦ってきたからこそ、数字を見るとパニックになるかと思います。
そんな時は思い切って、体重計から少し距離を置いてみませんか? その代わりに、「体重以外の回復のサイン」に目を向けましょう。 「昨日より、少し長く散歩できた」 「友達と笑って話せた」 「食べ物のことを考えない時間が10分あった」。
あなたの価値は、体重計の数字では決して測れません。
処方箋③:「食べたい」は、体が“あなたを信頼し始めた”サインと知る
止まらない食欲は、「飢餓状態からの反動」です。そしてそれは、あなたの体が「この人なら、また私に栄養をくれるかもしれない」と、あなたを信頼し始めたサインでもあるのです。
食欲を敵視するのではなく、「そっか、私の体、生きたがってるんだな。治りたがってるんだな」と、その声を受け止めてあげてください。
必要な栄養を、必要なだけ与えてあげること。それが、食欲を本当の意味で落ち着かせる、唯一の方法です。
処方箋④:「わかってくれる安全地帯」を、一つだけ見つける
「もう治ったんでしょ?」という言葉が、回復期の心をどれだけ傷つけるか。この苦しさは、経験した人にしか分からないかもしれません。
だからこそ、あなたの辛さをジャッジせず、ただ「そっか、辛いね」と聞いてくれる場所や人が必要です。
それは、専門のカウンセラーかもしれませんし、自助グループかもしれません。あるいは、たった一人の信頼できる友人かもしれません。
一人で戦わないこと。それが、希望を見失わないための、最強のお守りになります。
この項目では、4つの「心の処方箋」を紹介しました。すべてを一気に取り入れなくても大丈夫です。「これならできるかも」と思ったことを、少しずつ取り入れてみてください。
おわりに:焦らなくていい。あなたのペースが、正しいペース。

この記事では、摂食障害の回復期に現れる体と心のサインや、回復期の自分を認めてあげるための、4つの「心の処方箋」を紹介しました。
「早く”みんなと同じ”になりたい」「いつになったら、この苦しみは終わるの?」。 今、あなたはそんな焦る気持ちでいっぱいかもしれません。
でも、どうか覚えておいてください。 回復の道に、決まったスピードはありません。あなたのペースこそが、あなたにとっての唯一の正しいペースなのです。
回復は、まっすぐな上り坂ではなく、螺旋階段のようなもの。 時には、同じ場所をぐるぐる回っているように感じたり、少しだけ後退したように感じる日もあるでしょう。 でも、あなたは確実に、一歩ずつ、上へ、光の方へと進んでいます。
体重が増えた日も、食欲に振り回された日も、理由もなく涙が止まらなかった日。 そのすべてが、あなたの体と心が必死に生きようとしている、大切で愛おしいプロセスの一部です。
だから、どうか自分を責めないで。 どんな日の自分も、優しく見守ってあげてください。
あなたの歩む一歩一歩が、穏やかで、希望に満ちたものでありますように。
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